教員からのメッセージ

井柳美紀教授

(政治学・政治思想)

 現在、私たちはかつてない数々の難題に直面しています。すなわち、少子高齢化とそれに伴う社会保障の諸問題、財政赤字、人口減少、地方の衰退などです。私たちはどのように新しい社会を構築していくのか、望ましい社会の仕組みや発想を考えることが求められています。「政治学」は様々な立場からこれら諸問題を考えますが、なかでも私の専門である「政治思想」は価値や理念に注目して社会を捉え考えます。例えば「富の再分配が行われる際に、いかなる再分配が正義に合致し、あるいは公平なのか」、「公共の利益のために自由が制限される場合、優先されるべき公共の利益とは何か、公共の利益に優先すべき自由とは何か」、もっと身近な事例で言えば「学校の中の規則が、海外から来た人々の宗教や習慣と対立する場合、彼らの多様性はどこまで尊重されるべきか」、「主権者教育を行うに際して、先生の政治的中立性とは何か、先生はどこまで政治について自由に語ることが許されるのか」など、正義、公平、公共性、自由、多様性、寛容、政治的中立性といった様々な理念を軸として、社会のあり方を反省したり展望したりします。
 かつて古代ギリシアの政治思想家アリストテレスは「政治学」が正しい答えが一つ導かれる「理論学」(例えば数学や天文学)とは区別され、様々な回答が導かれる「実践学」に属すると述べました。彼は一つの回答のない「政治学」は「理論学」と比較して曖昧な学問だが、人間や社会をより善いものへと変化させることのできる重要な学問だとも述べています。例えば富の再分配を伴う政策について全ての人が満足する一つの正解はなく、だからこそ私たちはある政策を実施したり新しい社会の仕組みを提言したりする際には、多くの人々を説得できるより確かな根拠が求められるわけです。政治思想は数々の思想家の知恵が積み重ねられてきた長い歴史に照らしながら、俯瞰的に物事を捉え、現在や将来のあるべき社会の方向性を考える上での物差しを身につけることを目指すものだと私は考えています。大学では実務的な法や政治を多く学びますが、将来社会で活躍する皆さんには時間のある大学時代にしか学べない学問領域にも取り組んで頂けたらと期待しています。

刑事法を学ぶ

津田雅也教授

(刑事学)

 刑事法とは、犯罪と刑罰に関する法的なルールのことをいい、そこには、刑法、刑事訴訟法、刑事政策、少年法といった学問領域が含まれます。刑事法で学ぶこと(の一部)を、「Xがお年寄りのVに孫のふりをして電話をかけてお小遣いをねだったところ、VはXのことを孫であると信じ、Xの銀行口座にお金を振り込んでしまった」という事例によって簡単に示すと、Xの行為には何罪が成立し、Xはどのような刑罰を受ける可能性があるのか(刑法)、だまされたことに気付いたVから事件の通報を受けた警察はどのような手段を用いて証拠を収集してXを逮捕し、Xの刑事裁判において裁判所は証拠を用いてどのように事実を認定するのか(刑事訴訟法)、Xが実刑を言い渡された場合、刑務所ではXを更生させるためにどのような処遇が行われるのか(刑事政策)、Xが少年だった場合の手続は大人の場合とどのように違うのか(少年法)ということになります。
 社会情勢や犯罪動向の変化によって、刑事法も対応を迫られます。近年では、先に挙げた振り込め詐欺のほか、少年非行、交通犯罪、薬物犯罪、組織犯罪、テロといった分野において、重要な立法や法改正などが次々に行われています。大学における刑事法の授業では、裁判所の判断、わが国における法制度や立法の動向、研究者の学説などを参照しながら、従来から論じられてきた伝統的な論点はもちろん、これらの新たな問題点にも検討を加えます。
 刑事法というと、犯罪の内容を明らかにし、犯罪者を処罰するためのルールという側面が注目されがちかもしれませんが、適正な刑事手続を通じて被疑者・被告人の権利を保障しつつ事案の真相を解明するための具体的なルールのあり方、改善指導や就労支援などを通じて犯罪者を改善更生させ社会復帰させるための具体的な方策、犯罪被害者保護のための措置なども、同じように重要です。こうした様々な要請に配慮しつつ、犯罪防止という刑事法の目的を達成するための具体的な方策を考察していくところに、刑事法を学ぶ意義があるといえるでしょう。