臨床人間科学専攻とは
保健・医療・福祉・教育・行政・NPO・市民運動などのヒューマン・サービスや社会政策の分野で、対人援助の専門的技能をもって問題の理解と解決をはかる実践力と、その活動のあり方を探り改善を提言する研究力とを兼ね備えた高度専門職業人を育成します。心理臨床に焦点を当てた臨床心理学コースと、多様な問題領域のテーマを幅広い学問的基盤から探求する臨床人間科学コースからなります。両コースは有機的に連携して運営され、研究指導も専攻全体でサポートし、指導教員、副指導教員は両コース教員から選択できます。さらに、法学系、政策系教員の協力も得て、倫理、法、制度など幅広い人文社会科学的な視野と社会の中にある現場での実践力とを育成します。
コース紹介
広義の心理臨床に従事する高度専門職業人として、目前の課題に適切に対処する実務能力、実践の背景にある社会・文化・制度的なものを含む幅広い問題への感受性と倫理、および自らの実践の成果と効果を適切に把握してより適切な臨床実践を提言していくための研究能力をバランス良く兼ね備えた人材の養成をめざします。人文社会科学系の大学院として、地域と社会への貢献に力を入れ、特に医療・福祉領域の実習が充実していて、グループやコミュニティにも強みを持っているのが特徴です。「臨床心理士」および「公認心理師」の資格取得にも対応しています。
臨床心理学コースにつきましては,人文社会科学部社会学科心理学教室HPにも情報がありますのでご参照ください。過去問については人文学部学務係にて閲覧可能です。受験対策についての問い合わせには一切回答できませんので悪しからずご了解ください。なお,学生生活,カリキュラム,研究指導体制等についての問い合わせにつきましては個別に対応させていただく場合がありますので,ご連絡ください。
教員から:笠井仁教授
人はこころの中にさまざまな思いを抱くものです。ときにはその思いを自分では抱えきれずに苦しむこともあるでしょう。自分自身のことなのに自分ではどうにも思い通りにならないことがあるのも人間です。そのような人間のこころのありようを理解し、援助につなげていく学問が臨床心理学です。私はこれまで、心理相談室、精神科クリニック、緩和ケア病棟などでの心理的援助の実践を通じて、さまざまなこころのありようの一端に触れてきました。そこで感じてきているのは、人のこころには危うさとともに強さがあるということです。こころの臨床では、こちらから何かを与えるというよりも、相手のこころの快復力を信じて、回復の場づくりをしていくことが大切な仕事であると思うようになっています。どうにもしようのない状況にはこちらも大きな無力感を覚えます。それでもそこから回復の糸口をつかんでいく人間の力には、いつも新鮮な驚きを感じています。
ヒューマン・サービスや社会政策の分野で,地域と社会への貢献できる高度専門職業人を育成します。心理学、哲学・倫理学、社会学、身体運動学などの専門的・総合的視野と、実践や政策のあり方を探り提言できる実証的な研究能力を修得し、生命と尊厳、看護、介護などのヒューマン・ケア系、障害と差別、性とジェンダーなどの共生社会系、高齢化と余暇、運動と健康増進などのスポーツ・プロモーション系など、多様なテーマを探求します。現場で活躍する社会人のリカレント教育に特に強みを持ち、専門社会調査士、専修免許(高校公民・中学社会)にも対応しています。
人間を相手にするケア(対人援助)には,医療・看護・保健・福祉・介護・育児支援・教育などさまざまな分野がありますが,いずれの分野においても,個人の「いのち」と「こころ」の問題にとどまらず,身体・精神・社会・文化にも繋がりをもった「いのち」と「こころ」を総合的に考えることが必要となります。その意味での人間の全体性を視野に入れた「ヒューマン・ケア」のあり方を探り実践的に活動しうる高度専門職業人の育成をめざします。
看護師・保健師・福祉士・保育士・教員・社会教育主事・薬剤師・作業療法士・理学療法士・精神保健福祉士・介護福祉士・ケアマネージャー・ホームヘルパー・ボランティア活動への参加者・NPO法人関係者・地域福祉やケアの活動を企画されている方・企業の健康管理責任者・保健衛生行政担当者といった方々のリカレント教育にも,積極的に対応しています。
教員から:橋本剛教授
ヒューマン・ケア(対人援助)にはさまざまな分野がありますが、いずれも人間同士のコミュニケーションを通じて、人々の心身の健康や幸福の維持・促進を目指しているという共通点があります。相互扶助や社会性は人間を人間たらしめている重要な特徴のひとつであり、現在のわれわれの心や社会のあり方は、助けあうことによって発展を遂げてきた人間の進化的・文化的帰結であるとも言えます。
しかし、現代社会において、助け合いが十分に機能しているとは言い難い側面があることも否めません。なぜ、多くの人々が悩みや苦しみを抱えながらも、身近な人々にも、そして専門家にも、援助を要請することができないのでしょうか?なぜ、人々を助けるはずの対人援助の専門家との関わりが、さらに人々を苦しめることになるのでしょうか?そのような対人援助にまつわる諸問題は、助ける人、助けられる人、そしてそれを取り巻く人々の先入観や誤解によって生じている側面も多々あります。そのような先入観や誤解が構築・維持・解消されるための心理社会的なしくみを知り、よりよい対人援助を実現するために必要な知識と技能を習得するための機会を提供できればと思っています。
現代は,人と人,人と自然の共生について,深く考えなければいけない時代です。しかし,環境問題,階層間格差の問題をはじめとして,一見人と人の問題のように見えるひきこもり,不登校,出産育児,家族,ジェンダー,労働(仕事),在日外国人などの問題も,その社会的構造,制度的な背景を理解しなければ,十全な対応はできません。そこで,共生社会学コースでは,「社会調査」を武器にして,こうした問題群が生み出される社会的背景,要因について解明する能力を徹底的に磨くことによって,問題状況を改革していく実践的な糸口を見いだす力を養うことをめざします。すなわち,行政・企業・教育・福祉・NPOなどの現場で働くための高度な専門能力を身につけたい方,また現場の問題をコースの教員とともに解明したいと考えている社会人の方に応じた教育体制を整備しています。
なお,その一環として,「専門社会調査士」資格が取得できるプログラムもスタートさせました。
教員から:荻野達史教授
私自身は、青年期の移行問題に関わる、あるいは若者たちのメンタルヘルスに関わる問題ともいえる「ひきこもり」について研究してきました。実際には、居場所や共同生活の支援、家族支援、就学・就労支援を行っている、NPO法人などによる民間支援活動のフィールドワークを続けてきました。参与観察を続け支援現場を記述すること、スタッフや青年たち、そのご家族にインタビューを行い、かれらの抱える困難や支援の意味を読み解くこと、そしてそれらを踏まえて現代社会が必要とするサポートシステムのあり方を検討すること、こうしたことが私の研究課題でした。現在は、フィールドを産業精神保健へと拡げ、労働の場におけるメンタルヘルスをめぐる諸議論・諸活動を検討し始めています。
臨床人間科学専攻において、社会学は例えば観察やインタビューといった調査手法と、そのデータを生かす分析方法を提供する役割を担っています。また、計量的な手法も含め方法論的な蓄積をもとに、地域的な課題分析を促し、問題解決のための多様な主体からなる連携システムの構築に寄与することを実践しています。
今日、スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことが、全ての人々の権利として保障されています。そのスポーツについて考える視点には、「人間-スポーツ-社会」という軸が挙げられます。「人間」の理解については、心身の両側面から全人的に捉えるものですが、改めて、身体の生理学的理解を基に、今日の健康課題に対峙する必要があります。また、「スポーツ」の理解については、情報技術の進展やスポーツ化の拡張によって様々な論点が提起されており、これまで人類が創造してきた“運動文化”について再定義することも考えられます。さらに、私たちがスポーツと結びつく背景には、「社会」の歴史的・構造的変動の理解が欠かせません。そこで本コースは、以上の視点を深く論究するために、「運動生理学」「スポーツ経営学」「コーチング学」に主眼を置き、それらの総合的理解から持続可能な社会の実現へアプローチしていきます。今後、研究者を志す方や、既に社会現場で活躍されながらも更なる知識・技術を高めたい方へ開かれた教育体制を整備しています。
臨床人間科学専攻で取得可能な資格
近年、社会の急激な変化や複雑化に伴い、学校や職場や地域社会のなかで心理的援助サービスの必要性が高まっています。臨床人間科学専攻の臨床心理学コースでは、公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会が実施する「臨床心理士」及び国家資格である「公認心理師」資格試験の受験資格の取得に必要な講義・演習・実習が開設されています。
地域の教育界からの要望に応えて,社会系の教員に再教育および専修免許取得の機会を提供しています。臨床人間科学専攻では,中学校社会および高等学校公民の専修免許が取得可能です。(ただし,同教科の一種免許状をすでに取得している場合に限ります。)
共生社会学コースおよびヒューマン・ケア学コースでは,一定の科目を履修し,社会調査に基づく修士論文を提出した場合,「専門社会調査士」資格が取得できる研究指導プログラムを開設しています。「専門社会調査士」資格については,社会調査協会のホームページ(http://jasr.or.jp/)を参照して下さい。