静岡大学の研究力(人文学部 松田純教授)
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人間が今まで考える必要のなかった問題を考える
倫理学は、社会における人と人との関係、道徳・倫理を研究する学問で、その歴史はきわめて古いものがあります。近年、現実社会とのかかわりの中で倫理を考える応用倫理学の研究が盛んになっています。人文学部の松田純教授は、生命倫理学の研究者としてこのように話しています。「医療分野の技術革新で、従来、自然界では起こりえないことまで可能になってきました。それに伴って、今まで考えなくても良かったことを考えなくてはならなくなっています。」
生死に関わる人類の価値観を揺さぶる技術の進化
一つは生殖補助医療、誕生の問題です。人工授精や体外受精で子どもが産まれるようになって、日本でも、凍結保存した亡き夫の精子で妊娠するという事例や、体外受精卵を使って、母親に代わってその母親が出産する、つまり遺伝子的には孫を出産するケースも出てきています。「技術的に可能か否かは科学技術の問題ですが、善いか悪いかは倫理の問題なんです。」
誕生と並ぶもう一つの大問題、死。生命維持装置や人工呼吸器で、助からなかった命も救われるようになりました。しかしどの時点で安らかな死を迎えさせるか、他者が判断しなくてはならない場面も増えています。
遺伝子医療と社会とのよりよい関係を探る
松田教授が特に対象とするのは遺伝子医療。遺伝病の遺伝子はかなり特定され、生まれる前から遺伝子を調べれば病気になることが分かるといいます。5~10年のうちには、病院に行ったらまず遺伝子検査をされるような時代が確実に来ようとしています。
「遺伝子情報は、その人自身に止まらずに血縁者にも関係します。それをもとに就職や結婚の差別を受けるとか、保険に加入できない事態が起こりうるし、現にアメリカでは起こっています。こうした問題の発生を予測して、法や制度を整備し、遺伝子医療を発展させるにはどうすればよいかという、非常に現代的、かつ重大な課題に我々は直面していて、生命倫理学の大きなテーマになっています。」
日本やアジア人の心にしっくりとくる倫理学の構築
人文学部では、人文・社会科学系の広い分野をカバーしている学部として、文部科学省の科学研究費で「生命ケアの比較文化論」というテーマで、アジアや日本の生命観に基づいて考えるとどうなるのかという研究にも3年間取り組んできました。
「すさまじいスピードで科学技術は進歩。ところが私たちは、原始時代からのものすごく古いアミニズム的な感覚をひきずっていて、遺体を物体とみなすことはできない。私たちはいま、太古の感性と先端技術が火花を散らすような場面に遭遇しています。そこに、生命倫理学を研究する面白さと意義があると思います。」
- この文章は、もともと「静岡大学 総合案内2010」に掲載されたものです。松田教授および大学本部の許可を得たうえで本サイトに転載しました。
