静岡大学 人文社会科学部 社会学科 人間学コース 文化人類学分野のウェブサイトです
文化人類学@静岡大学Cultural Anthropology at Shizuoka University |
学生の声 Students' Voices
「文化人類学コースでの学習経験から『語る』」
文化人類学を知らない人から「文化人類学ってどんな学問?」と聞かれると、私は「知らない場所で知らない人と長期間共に暮らして、その場所に暮らす人の文化を学ぶ学問です。」と伝えることが多いです。そこからもう少し詳しく言うときには、先の文に付け加えて「共に過ごす人からいろいろと学んでいく中で自らの当たり前が崩されていく学問でもあります。」と言います。こうした文化人類学に対する私の持つイメージは、静岡大学文化人類学コース(以下、文人コース)で学んだ中で生まれたものです。今からは、文人コースでの教育課程で記憶に残っている3点(①議論形式の授業②3年次のフィールドワーク③卒業論文執筆のためのフィールドワーク)の学習経験について話していきます。
① 1点目は議論形式の授業についてです。文人コースにおいては2年次から、文献や映画を読んだ/観た後、その内容について数人のグループに分かれて議論するという形式の授業が始まります。議論形式の授業において特筆すべき点は、読む/観るときの驚きと議論のときの驚きという形で2回の驚きがある点です。まず読む/観るときには、自ら想像できないような人びと/モノの生き方/有り方へ驚きます。そして、議論のときには、同グループの人が、私の驚きとは異なる点に驚いていることを知り、私は驚きます。そのような議論形式の授業においては、自らの「当たり前」が驚きによって崩されているといえるかもしれません。
② 2点目は、3年次のフィールドワーク実習(以下FWとする)です。文人コースでは、3年生の初夏に約1週間泊まり込みのFWを実施します。私の代はコロナウイルスの影響によって宿泊はできませんでしたが、通いでのFWを実施することができました。場所は静岡県静岡市の興津地区(以下興津とする)です。それぞれの学生が興津の中から調査対象を決め調査をしました。私は「興津温泉」という宿泊施設について調査をしました。先生方からいただいた「語りに耳を傾けることが重要」というアドバイスを活かして、「興津温泉」で働く人びとの「語り」に耳を傾けました。「語り」とは質問に対する返答のことではなく、自然と口から出る言葉という含意があり、それは時や場を共有することで生まれると私は考えています。質問紙による調査とは、明らかに異なります。そのような「語り」は「興津温泉」の歴史やそこで働く人びとの思いとライフストーリーを明らかにしてくれました。短期のフィールドワークでしたが、「語り」に耳を傾ける重要性や現地で同じ空気を吸い同じ時間を共有することの重要性を学びました。
③ 3点目は卒業論文執筆のためのフィールドワークです。社会学科では卒業論文の提出は卒業要件で、もちろん文人コースも提出は必須です。研究対象やテーマは、各学生がそれぞれの興味関心で設定することができます。文人コースの同級生の研究例をあげてみると留学生やたばこ、筆談カフェなどがあります。いくつか挙げただけでも、とても多種多様なことが分かります。研究対象もテーマも可能性は無限大で、これは、文人コースが眼を惹く点の一つです。
選択肢が数多ある中で私が選んだ調査対象は静岡競輪場です(冒頭写真)。「そこに訪れる人びとが競輪にいかに賭けているか?」ということをテーマとして、調査をしました。調査方法は、静岡競輪場で賭ける人への聞き取り調査や静岡競輪場へ実際に訪れて賭けてみるという参与観察です。調査をする中でみえてきたことは、静岡競輪場は単に賭ける場所でなく、人びとが集い会話を楽しむことが重要視されている場所ということです。また、静岡競輪場において人びとは、当てて得たお金を奢り合ったり情報を交換し合ったりする中で賭けていることです。私は持っている情報や得たお金を相互に与えあっているという姿に驚きました。なぜ私が驚いたのかについて考えてみると、資本主義社会を生きてきたがゆえに、モノには貨幣と交換できるとか、利益の独占が起こるという当たり前が私の中にあったと考えられました。卒業研究において、自らの「当たり前」に気づくとともに、人ともに相互に与えあいながら生きていくという別の有り方を学びました。
以上が文人コースで記憶に残っている学びの経験です。こうして振り返ると、文人コースにおいては主体性が求められているかもしれません。ただ、私も初めから主体性を持っていたというよりは、上記の学習経験を積んでいく中で培われていったと考えられます。私にとって文人コースでの学習経験は人の主体性を育み、自らの興味関心に沿ったことを実施できる場所です。文人コースに入る方もそのような経験ができるかもしれません。この文章が、皆さまの進路決定及びコース(分野)選択の一助になれば幸いです。