静岡大学 人文社会科学部 社会学科 人間学コース 文化人類学分野のウェブサイトです
文化人類学@静岡大学Cultural Anthropology at Shizuoka University |
学生の声 Students' Voices
「文化人類学コースで得たもの」
私が文化人類学コースで学ばなければ得られなかったと考えるものは、「インフォーマントとの出会い」です。特に、卒業論文で、約一年間という長い期間関わらせていただいた三重県いなべ市の筆談カフェ桐林館喫茶室のオーナーである金子さんと出会えたことで、「音声のない世界」という、自分が文化人類学コースの卒業論文のテーマに選ばなければ出会えなかった世界に飛び込むことができ、かけがえのない経験になりました。
また、調査を通してつながりを持った人々と、調査を終えた今でも関わることができるのは、文化人類学コースのフィールドワーク調査という方法で調査ができたからであるとも考えています。これから、私のフィールドワークでの体験を紹介します。
3年次に行われたフィールドワーク実習では6日間、静岡市清水区興津に通い、潮屋さん、うしほ屋菓子店さんという和菓子店の方々に出会い、お話を聞かせていただきました。
興津が製餡業発祥の地であることと、全体的な商店の減少が見られる興津の中で、菓子店の店舗数だけが減少しておらず、明治・大正の時代から店を構える「老舗菓子店」と呼ばれる店がある点に注目し、調査を行いました。「老舗菓子店が地元の人々に愛され続けるためにどのような工夫を凝らし、どのように地元に根付いていったのか」というテーマで調査を行った結果、お店を守り経営を続けていくための努力や、家族を養うために新商品を開発し、時にはバザーなどのイベントに出店して新商品の定着を図ったことなど、たくさんのお話を聞かせていただきました。興津での調査期間の中で、私にとって印象に残っているのは、潮屋での調査の傍ら、お店の一角で当時小学生のお子さんと戦国武将についてお話をしたことや、うしほ屋で調査を行った際「今手が離せないから」と店主に作業場へ連れて行ってもらい、作業している様子を見ながらお話を聞かせてもらったことです。
フィールドワーク実習では、聞き取り調査だけではなく、調査以外の場面での人間関係・参与観察の大切さを知りました。6日間という短い期間でしたが、今でも静岡に立ち寄ると、興津での実習の日々や、お店の方の顔を思い出します。
4年次の卒業論文の調査は、筆談カフェ・桐林館喫茶室で行いました。筆談カフェ・桐林館喫茶室は、筆談をテーマにしたカフェであり、「音声会話ではなく、筆談を主とした音のないコミュニケーションを体験する場」「音がないから、オモシロイ」というコンセプトのもと運営されているカフェです。地元三重県いなべ市のお店であることや、カフェ=音声会話の飛び交う場所であると思っていた私にとって非常に興味深く、新鮮な場であったことから調査対象に選びました。
調査の中で、kinariファミリーと呼ばれるカフェイベントへの出店者の方々に出会い、友達のような、家族のような、仕事仲間のような、どのカテゴリーにも分類しえない、深くて絶妙な距離感の関係を持つ人々の関わり合いを間近で見ることができたことや、イベントを介して、普段音声で会話している人・そうでない人、筆談や手話に慣れている人・そうでない人が共に一つの空間で交流・買い物・飲食を楽しむ光景を見ることができ、そこに自分も参加することができたことなど、不思議で貴重な経験ができていた当時のことは、今でも鮮明に覚えています。
文化人類学コースでは、主にフィールドワークという調査方法を用いて研究を行います。文化人類学の調査で行われるフィールドワークは、「現地の人々と一緒に生活しながらその土地の文化を学ぶこと」を指し、一定期間現地で生活をすることが必要になります。3年次のフィールドワーク実習では約一週間、卒業論文のフィールドワークでは約5か月現地に通って調査を行いましたが、「自分が知らなかった環境に長期間身を置く」ということは、最初はとても負担に感じることであると思います。フィールドワーク実習で興津に行くまでは、私もそう思っていました。
実際に調査を始めた当初は、行く先々で自分の調査テーマについて詳細に説明をしなければならなかったり、聞き取り調査以外の時間も参与観察として見たもの感じたことを常にメモしなければならなかったりと、常に気を張っていなければいけないため非常に大変だと感じました。しかし、ある程度の時間を現地で過ごすことによって、お互いに慣れることにより、インフォーマントの語りに変化が出たり、自分の意識にも変化がでたりして、聞き取り調査を行うだけでは得られない語りや、数回の参与観察では感じられない自身の感覚の変化を感じることができます。
調査地として選び、フィールドワークを行わなければ「行くことのなかったであろう場所」で長い時間を過ごし、そこにいる、「関わることのなかったであろう人」と交流を深めることは、文化人類学コースの学生でなければ経験できないことなのではないかと思っています。
私は今でも、卒業論文の調査でお世話になったお店にときどき足を運び、オーナーやスタッフ、kinariファミリーの方とお話をします。筆談で会話をした際、ペンギンの絵を描いたことがあるのですが、イラストレーターをされているkinariファミリーのカトウさんに「上手いやん」と褒めていただいたことがとてもうれしくて、今でもよくそのペンギンの絵を描きます。また、kinariファミリーの方にお会いするために、今でも、月に一度行われるkinariマーケットというイベントに時々参加しています。卒業論文のフィールドワークで桐林館喫茶室へ通っていた時は、調査の傍ら、kinariファミリーの方とお話したり、kinariファミリーの方が楽しそうに交流されている雰囲気の中にいてお茶やコッペパンをいただくのが当時の私の楽しみでした。最近はなかなか予定が合わず参加できていませんが、インスタグラムでkinariマーケット開催のお知らせを見るたびに、卒業論文のフィールドワークでお店に通っていた日々を思い出します。
このように、フィールドワークで体験したことが現在の自分の生活にも影響していることを思うと、文化人類学コースの学生として行ったフィールドワークは一生ものの経験になるのかなと感じます。
以上、私の文化人類学コースでの学び・体験についての紹介でした。
たくさんの人々との出会いを通して、自分の世界を広げていけることが、文化人類学分野の最大の魅力だと思います。ぜひ、「新しい世界」に思い切り飛び込んでみてください!