
二つの目でみること―新たな知の創造へ
「二つの目でみること(Two-Eyed Seeing)」。これは,カナダ・ケベック州に居住するミクマック族の長老アルバート・マーシャル氏が提唱した考え方です。一つの目は西洋的な科学に基づく知,もう一つの目は先住民社会で培われてきた伝統的な知による見方を指します。前者が文献など文字記録を通じて蓄積されてきたのに対し,後者は環境の細やかな観察や経験を通じ,口承によって受け継がれてきました。伝統的知識は文字化されていないがゆえに科学的知より劣ると見られがちですが,自然や社会への深い問いに根差した叡智であり,西洋的科学に比肩しうる価値を有しています。「二つの目でみること」とは,これら異なる知の体系を対立させるのではなく,同時に活用し,統合することによって新たな知を創出しようとする姿勢です。
これら「二つの目」は,別の言い方をすれば,一方は学問的・理論的知,他方は生活世界に根ざした在来知と捉えることができます。従来は前者が重視され,後者が非科学的として軽視される傾向がありました。しかし,学問的知のみでは解決できない複雑な課題が顕在化する現代において,もう一つの「目」の重要性がますます高まっています。これまで経験したことがないほどに急速かつ複雑に変化する社会の真っ只中にいる私たちに求められているのは,「二つの目」をもって世界を見渡し,ことの本質を的確に掴みとることです。
約80名の教員を擁する静岡大学人文社会科学部は,社会学科,言語文化学科,法学科,経済学科の4学科からなり,人文社会科学の専門知識とともに,多様な問題に実践的に対応できる応用力を身につけることを教育目標としています。全学で行なわれる教養科目に加え,人文社会科学部の各学科で展開される専門科目,更に学科横断型の学部共通専門科目を通じて学問的知を修得するとともに,フィールドワークなど現場を体験する科目を通じて実践的な応用力を会得するようなカリキュラムが用意されています。まさに「二つの目」を得ることが現下の様々な問題の解決には必要であり,それが更に新たな知を創造することに繋がります。そうした「目」を備えた人材を世に送り出すことこそ,私たち人文社会科学部の社会的責務であると考えます。
本学部は,1922年創立の旧制静岡高等学校に淵源を持ち,現在では人文社会科学のほぼ全領域を網羅する全国有数の文系総合学部へと発展しました。更に,社会人の方々が学ぶ場としての夜間主コース,また,本学部に接続する形で,3専攻からなる人文社会科学研究科を設置しています。百有余年の歴史を有する本学部は,これまで多くの人材を社会に送り出してきました。これからも多くの方が,本学部の門を叩き,その学統の流れに繋がることによって,私たちとともに新たな知の創造を目指すことを願っています。
