学部長あいさつ

人文社会科学部長 田島慶吾

困難を超えて、前進する力

 昨年私たちの社会をコロナ感染症という、その発生原因さえ明確ではない病魔が襲いました。皆さんがこの文章を読んでいる時も、事態はそれほど改善されていないのではないかとの恐れさえ抱かせる状況です。コロナ感染症の蔓延により、静岡大学は、学生が大学キャンパスで授業を受けるという通常の授業に代わり、オンライン授業の実施を余儀なくされ、そのため大学キャンパスから学生の姿がほとんど消えるという異様な光景を目にすることとなりました。オンライン授業は在学生・教職員にとっても未知の経験で、果たしてオンライン授業で対面授業と同等の教育水準を保証できるのか、大学にオンライン授業を展開できるだけの情報基盤があるのか、そして何よりも、学生がキャンパス生活を送れないことの精神的、心理的な影響はどうなのか、等等の問題に対応しなければなりませんでした。

 このような事態の下で、「人文社会科学部で学ぶ」ということの意味は何でしょうか? 本学部のアドミッション・ポリシー(学部の求める学生像)は「21世紀の多様な問題に、社会、言語、文化、法律、政治、経済等の分野から取り組むために必要な専門知識と能力を身につけ、国際的な視野と幅広い教養を備え、人類社会の発展に貢献する市民・社会人を育成」することと宣言しています。本ポリシーはともすると単に美辞麗句を並べただけのものと受け取られかねないものですが、今、私たちが直面している状況は、まさに、人文・社会科学諸領域の専門的知識・能力を身につけ、この知識・能力を基に困難下にある他の人々を相互に助け合うなければならない、という事態です。コロナ感染症が惹起した問題は医学、防疫学、薬学等の問題であるばかりでなく、経済、政治・法、社会生活の問題です。相互に理解しあい、助け合う、という他者への共感と相互の人間的な繋がりを活かし、「市民」としてこれらの問題に対応することが本来の人文社会諸科学(18世紀まではMoral Philosophy・道徳哲学と呼ばれていました)のレゾンデートル(存在理由)です。

 1947年にカミュは『ペスト』を著し、ペストという無慈悲な悪魔が無差別に人を襲い、多くの犠牲者を出しながらも、市民たちが協力しあい、この惨禍を乗り切る姿を描きました。既に1722年に、『ロビンソン・クルーソー』で有名なダニエル・ディフォーが同名の小説『ペスト』を発表しています。1655年のペスト大流行の事実に基づく小説ですが、この本の目的は「魂と肉体とを保つためのペスト対策」を提起することにあったと言われています。コロナ感染症やペストは人の「魂」の問題であり、そして人文社会諸科学は、この「魂」の部分を取り扱う学問です。 人文社会科学部の全ての教員は、皆さんが単に専門知識・技能を身につけるだけでなく、困難に直面した場合にそれを乗り越える力をも涵養することを望んでいます。本学部はディプロマ・ポリシー(学位授与方針)として、「社会を構成する市民としての自覚を備え、他者と協力して課題に取り組むことができる」ことをあげています。「本学部で学ぶ」ことの意味は、専門的知識・能力を習得するとともに、市民としての自覚を持ち、他者と協力して、困難を乗り越え、前進する力と意欲とを涵養することにあります。私たち本学部の教員は、本学部のこうした教育の「理念」に共感する皆さんを新緑の大学のキャンパスで迎えることができることを願っています。

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